失業中のある夏の終わりころ。
俺は、ハローワークを通して受講すると半年間、月に10万円ほど給付されるというパソコン講座に通い始めた。
パソコン自体はWindows95の頃から10数年使っていたが、興味があったインターネット関連のスキルばかりが伸びていて、基本的な文書作成や表計算のスキルは疎かになっていた。新しい知識を勉強するのにちょうど良さそうというのが受講の理由だ。
しかし、初級者コースとはいえ、なんとも頼りない20代後半のマサコという女性講師が俺たちのクラスに割り当てられた。
授業の声は小さく、説明も自信なさげで、俺が教えた方がいいんじゃないかと本気で思った。
なんでもこの学校に就職して研修らしきものもなく、2週間でいきなりクラスを任されたらしい。
最初はおとなしく授業を受けていた生徒たちも、この先生で大丈夫かと、次第に不満が大きくなっていく。
授業で時折、助け舟を出す俺に相談のメールがくるようにはあまり時間がかからなかった。
12月下旬、年内最後の授業。
講座は午後3時から始まる午後コースで、夜8時過ぎに終わった。
俺は年末の挨拶をと思い、先生の近くに歩み寄る。
「今年はお疲れさまでした。いろいろ大変でしたね」
「ありがとうございます。ユウさんのおかげで辞めさせられずに済んでます」
マサコはこの後、急に小声になり、
「これから飲みに行きませんか?」
と言ってきた。
だいぶ助けたから酒でお礼でもしたいのかな、と俺は受け取ってOKした。
年末最後の授業が終わった解放感もあるし、なによりマサコが俺に好意を持っているのではないかというのは感じていた。
どの程度の好意なのかは、わからないけど。
中島公園近くの学校から、すすきのまで一緒に歩いて向かう。
この時期の風物詩、ホワイトイルミネーションが雪を照らして輝いている。
俺の心も久しぶりに女性とすすきのを歩いているという現実に、ウキウキとピンク色に輝いている。
店は俺のお任せということになって、ノルベサの観覧車裏側にあるビルのパブに行った。
カウンターは埋まっていたから、6人掛けのボックス席に2人で座る。
馴染みの店ということもあり、マサコのコートをハンガーに掛けたり、カウンターから酒を受け取ったりと、俺がきびきびと動いた。
「ユウさんって優しいね」
「俺は優しさだけでできてるからね」
酒を飲み始めてから、1時間も経たないうちに、マサコは俺にしなだれかかってきた。
たぶん続くんじゃないかな。
※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい半分くらいが真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。人物はほぼだいたいが仮名です。
週刊キャプロア出版 第36号は、ゆーが編集長しました。
テーマは『駅』