僕にとって、たこ焼きといえば盛り場であり、すすきのである。
僕はちょうど30年前にすすきのにある飲食店で働き始めた。
働いていたパブのあるビルの裏口近くに、ひっそりと営業していた、たこ焼き秀ちゃん本店五条新町。
ここのたこ焼きや焼きそばを、お客さんが差し入れしてくれたり、泥酔して買って帰ったり。
美味しさとしてはまあまあ普通くらいと思うのだけれども、この店を思い浮かべると、30年前の色々なことがよみがえるのだ。
成人式の日に飲み過ぎて路上に這いつくばっていたユカ。
タンカレーのジンを僕に一気飲みさせたトモヨ。
毎週末朝まで飲んでいた小学校の先生マユミ。
ラークマイルドを一口吸ったらすぐ消して、またすぐに次の一本に火をつけるソープ嬢のユキ。
店のタンバリンを持って帰ってしまって、僕ら従業員がマスターに叱られて、後日ごめんなさいと返しにきてくれたサヤカ。
僕が北海道を離れてから、一度だけ札幌に戻ったのはサヤカに会うためだった。
サヤカは僕が働いてたパブの後輩であるマサシと結婚していて、マサシから連絡があったのだ。
サヤカは余命あと3か月くらいだという。
3か月か。まだ大丈夫と思い、ちょうど仕事の休みが取りやすかった3週間後に飛行機の手配をした。
出発の一週間前に、サヤカとメールのやり取りをした。
来週行くから。
楽しみにしてるね。
結局、サヤカは僕を待っていてくれなかった。
札幌のマサシの家には、サヤカの靴や衣類が、生きている時と同じように置かれていた。ああ、サヤカはヒョウ柄が好きだったよな。
会いたい人にはすぐ会おう。
たこ焼きから連想して、こんなことを思い出してしまうこともあるのだな。